埼玉県への要望書
1 要 旨
平成29年10月23日の台風第21号により川越市及びふじみ野市等において甚大な被害が発生していることから、一日も早い復旧・復興により日常を取り戻すことができるよう、被災者を代表して県知事に次のとおり要望いたします。
(1) 本件被災者の復旧支援のため、「埼玉県・市町村被災者安心支援制度」の適用範囲を拡大していただきたい。
(2) 水害の兆候を早期に周知するため、今回被災地域周辺の水位観測所を新河岸川(上流域)の洪水予報対象観測所として指定していただきたい。
2 要望に至る経緯
昨年10月21日から23日にかけて日本列島を縦断した台風第21号は各地に甚大な被害をもたらし、県内においても1,000戸以上の世帯に床上・床下浸水等の被害が生じました。(※1)
なかでも川越・ふじみ野両市においては、新河岸川の水位上昇によって地域の生活排水等を新河岸川に流す「江川流域都市下水路」の樋門が閉鎖された結果、数百メートル四方(およそ30ヘクタール)の地域が急激な速さで冠水する事態となってしまいました。その浸水高は最大で2m近くに及び、車の屋根が見えなくなるほどの状況の中、およそ50名にのぼる被災者が消防のボートで救助され、それ以外の住民についても冠水地域での孤立状態が半日以上にわたって続きました。
別紙第1「川越市・ふじみ野市における被害状況」
発災から数か月が経過するなか、被災地域では川越・ふじみ野両市役所を始めとする関係方々のご尽力により被害復旧や再発防止の取り組みが鋭意進められています。被災住民としてはその努力とご苦労に対して感謝の念にたえません。
特に下水道の修繕や移動式排水ポンプの整備、河道拡張工事などの事業措置については、できるだけ数か月後の台風シーズンに間に合うよう各種の対応を速やかに着手・推進していただいており、浸水被害の再発を恐れる被災住民にとっては心強く感じられます。
しかしながら、土木工事や器材取得といった地域を対象とした事業についてはしっかりとした処置がなされている反面、被災者個々を対象とした支援については十分とはとても言い難いのが実情です。
また、今回の水害では地域住民は何らの警告・警報も受けられず、目を覚ました時には既に屋内が水に侵されている状態で、家財や車を高所に避難させることもできずに大きな被害をこうむりました。
3 要望事項
前項で挙げた2点の問題点について、県に対し下記を要望いたします。
(1) 本件被災者の復旧支援のため、「埼玉県・市町村被災者安心支援制度」の適用範囲を拡大していただきたい。
家屋修繕や仮住まい等による経済的被害の大きさに比して、現状ではほとんど公的支援を受けることができていないために、多くの被災者が復旧・復興に制約を受け、いまだに修繕工事に着手すらできていない世帯も少なからずあるのが実情です。
その原因としては、国としての基本的な支援制度である「被災者生活再建支援制度」について本台風第21号では県内全ての市町村が適用外とされたことが挙げられます。これは、上記制度が災害救助法の適用(※2)地域を適用の要件としており、かつその要件が都市部の市町村に厳しいという制度的な問題に起因するもので、現に今回の台風21号災害に関しても、本県川越市より被害規模の小さい市町村が適用を受けていながら同等の被害規模である川越・ふじみ野両市は適用外とされています。
別紙第2「主要な市町村の被害規模及び災害救助法の適用状況」
また、上記を含めた「国による救済の漏れ」を補完するためのセーフティネットとして、県では平成25年度に「埼玉県・市町村被災者安心支援制度」を創設していますが、本制度は適用対象が「大規模全壊以上」の世帯に限定されているため、半壊以下の被害がほとんどを占める今回のような内水災害ではこちらの制度も適用を受けることができません。
しかしながら、ベタ基礎、一体工法による最近の住宅構造では床上・床下浸水の被災程度であっても復旧には基礎・床部分の全面補修を必要とすることが少なくなく、被災者には数百万円前後の経済負担が重くのしかかってきます。
被災地域には貯えの乏しい高齢者世帯も多く含まれているために、自己負担で修繕を行うことができる世帯は一部にとどまり、修繕費の工面がつかない住民のなかには流入した下水・汚水が床や断熱材に染み込んだままの家屋で不衛生な生活を続けざるを得ない人もいます。
このような状態では元通りの生活に復旧するどころか、今後の気温上昇に伴ってトイレや台所の生活排水が染み込んだ床・壁からは悪臭が立ち上り、カビや病原菌が繁殖して健康上の二次災害を惹起する恐れすらあります。
別紙第3「地域住民の経済的被害」
このため、国の支援制度が適用を受けることが出来ないのであれば、せめてそのセーフティネットという趣旨で創設された「埼玉県・市町村被災者安心支援制度」を実ならしめるため、大規模な内水被害にも対応できるような形での制度拡充が必要だと考えます。
一例としては、大規模半壊以上の被災世帯だけが支援対象である現状の制度をより公平に適用できるよう、支援の対象を床下浸水までに広げるとともに、各世帯の被害程度に応じて段階的な支援レベルを定めるという見直し方法があります。現に、他都道府県では平成25年から27年にかけて国制度で救済されない半壊以下の被災世帯にも支援の手を差し伸べる方向で独自の支援制度を創設している例が多くみられます。
別紙第4「他県における独自の水害被災者支援制度(一例)」
なお、この要望事項は、今回の台風災害を対象とした一過性の必要性によるものではありません。
我が県は地震や津波、火山といった大規模災害には縁のない、国内でも稀有な安全を誇っていますが、その反面、県東半を占める低平地に数百万の県民が居住しているために、今回のようなゲリラ豪雨や巨大台風による大規模水害のリスクが高いという地形特性を有しています。
ということは、県政においても重視すべき対象は、全壊世帯が多数発生する激甚災害よりも、半壊程度の浸水被害世帯が多数発生する水害なのではないでしょうか。
既存の生活支援制度では昨今のゲリラ豪雨や大型台風によって引き起こされる浸水被害には十分な対応ができないことは他県の支援制度創設の動きからしても共通認識となりつつあります。
我が県においても、ありうべき今後を想定した上で、公的救済の漏れを防止するとともに被災住民間の格差を是正するための支援制度見直しを行うことは、被災者の速やかな復興のみならず、大多数の県民の安心に寄与すると確信いたします。
(2) 水害の兆候を早期に周知するため、今回被災地域周辺の水位観測所を新河岸川(上流域)の洪水予報対象観測所として指定していただきたい。
今回の浸水災害は、新河岸川の水位が上昇したことによって江川流域都市下水路から新河岸川に雨水等を排出する樋門が自動的に閉鎖されたことに端を発しています。
閉鎖自体は新河岸川から江川への逆流を防ぐために必要な機能ですが、行き場を失った雨水・下水が時間とともに市街地に滞留し、ポンプによる排水が後手に回ったこともあって今回の被害を招きました。
なかでも被害を大きくした原因として挙げられるのは、内水の滞留が進みつつあるなかでも地域住民に対して何らの警報・警告がなされることがなかったために、被災地域住民は『新河岸川に関して洪水予報が発令されていないから大丈夫だ』と誤認して、家財や車の避難処置を講じることもなくあたら被害を拡大することになりました。
なぜこのような事態が起きてしまったのか。
新河岸川は県の洪水予報対象河川に指定されており、宮戸橋水位観測所(朝霞市)で計測した水位をもとに水位上昇に応じて避難準備やはん濫警戒情報等を発令することになっています。
しかし、被害発生点(川越市)は上記観測所からおよそ15km離れていて、今回上流の川越市で水位上昇により樋門を閉鎖した時点で、下流の宮戸橋水位観測所ではまだ平常域に近い水位に収まっていました。
両地点における水位上昇の推移を比較すると、距離の離隔や川幅の差異等によって上記のミスマッチが生起したと推測されます。しかしながら上流部(川越市)において観測された『避難判断水位』に相当する危険なレベルの水位上昇が地域住民への警報に生かされない現状の監視体制は不十分であると言わざるをえません。
別紙第5「今回の被災地点における最大水位高」
以上から、新河岸川の洪水予報発令を判断する水位観測所として、現行の1カ所体制を、上流部(川越市)と下流部(現行の朝霞市)の2カ所体制に拡充する必要があると考えます。
あるべき姿としては、新河岸川流域各地点について降雨時の水位高を計測した上で、異常な水位上昇が見られる地点を漏れなく監視対象とすることが望ましいのでしょうが、調査には時間とコストを要します。
そこで喫緊の対処として、今回被害地点(江川・新河岸川合流点)付近の水位観測所を暫定的な洪水予報発令対象観測所に指定して、新河岸川上流部(川越市)及び下流部(朝霞市)の2拠点態勢をとることを再発防止策の一つとして要望いたします。
これにより、最悪今回のような浸水被害が再発したとしても地域住民が家族や家財の避難を先行的に行えるとともに、水防団や各自治体による迅速な被害極限処置が実現できるのではないでしょうか。
4 結 言
以上、縷々申し述べてきましたが、県知事におかれましては今回の台風21号被災者の窮状をご理解いただくとともに、今後同様の課題が生起することのないよう、なにとぞご賢察ご高配のほどよろしくお願い申し上げます。
※1 「市町村被害表 平成29年12月1日17時00分現在」(埼玉県HP)
※2 市町村単位で、その人口に応じて一定以上の被害世帯数を生じた市町村に災害救助法が適用される。
(災害救助法施行令第1条)
例:人口1万人の町では床上浸水120戸以上で適用されるが、人口30万人以上の川越市の場合は450戸
以上が適用条件となる。